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岡山地方裁判所 平成9年(ワ)198号 判決 1997年8月21日

原告

片岡香奈江

被告

竹内昭平

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告に対し、金四五七万四三二二円及びこれに対する平成六年五月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被告竹内昭平は、原告に対し、金四五七万四三二二円及びこれに対する平成六年五月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告竹内昭平は、原告に対し、金二九二三万二四六〇円及びこれに対する平成六年五月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被告竹内さちよは、被告竹内昭平と連帯して、原告に対し、前項の金員の内金一四六一万六二三〇円及びこれに対する平成六年五月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故

日時 平成六年五月四日午前一時一〇分ころ

場所 兵庫県津名郡一宮町南三一五番地の一九先

加害車両 普通乗用自動車(神戸三三ま一九三五)

右運転者 訴外亡竹内謙太(本件事故により死亡、以下「亡謙太」という)

被害者 原告(加害車両の助手席に同乗中)

態様 加害車両が対向車線を越えて岩壁に衝突したもの

2  責任

亡謙太の父である被告竹内昭平は加害車両の所有者であり、自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者責任を負う。

亡謙太は加害車両を自己のために運行の用に供していたものであり、かつ前方不注視の過失があるから、自動車損害賠償保障法第三条及び民法七〇九条の各責任を負う。

3  権利侵害

原告は、本件事故により頭部裂創、全身打撲、右上腕刺創、顔面裂創等の傷害を受け、次のとおり入通院による治療を経て、症状固定し、後遺症が残った。

<1> 治療経過

平成六年五月四日乃至同月一〇日入院(七日) 兵庫県立淡路病院脳神経外科

平成六年五月九日通院(実日数一日) 兵庫県立淡路病院口腔外科

平成六年五月一〇日通院(実日数一日) 吉永町国民健康保険町立病院

平成六年五月一一日乃至同月一四日通院(実日数三日) 浅野歯科

平成六年五月一一日通院(実日数一日) 岡山済生会総合病院脳外科

平成六年五月一一日乃至同年一二月二〇日通院(実日数七日) 岡山済生会総合病院形成外科

平成六年五月二一日通院(実日数一日) 清原整形外科医院

平成六年六月六日乃至同年八月九日通院(実日数五日) 明倫会宮地病院

平成六年一二月二一日乃至同月二七日入院(七日) 岡山済生会総合病院形成外科

<2> 症状固定

平成七年六月二四日

<3> 後遺症

前額部瘢痕(長さ八センチメートル)、顔面瘢痕・潰瘍(右瞼長さ二・五センチメートル、右目尻下長さ二・五センチメートル、左眉上部長さ二センチメートル)、右上肢瘢痕(四・五×二センチメートルの肥厚瘢痕)<後遺障害等級第七級一二号の事前認定>

4  損害額

<1> 治療費 金二四万六九六二円

<2> 入院雑費 金一万八二〇〇円

一日一三〇〇円の一四日分

<3> 傷害慰謝料 金一五〇万円

<4> 逸失利益 金二三一七万七二九八円

平成六年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計産業計高校卒女子労働者の年間平均給与額三一二万七六〇〇円に、労働能力喪失率として〇・三〇を乗じ、労働能力喪失期間を平成七年六月二四日の症状固定日から満六七歳までの満五〇年間としてこれに対応する新ホフマン係数二四・七〇一九を乗じて得た金額

<5> 後遺障害慰謝料 金一二〇〇万円

原告は、本件事故当時、駿台ホテル観光事業専門学校スチュワーデス課に在籍し、平成七年六月二三日ころスチュワーデスになるつもりで航空会社を受験したが、採用担当者かち顔面に醜状痕があるため採用は難しいと言われ、スチュワーデスになる機会を奪われるなど、醜状痕の存在によって職業選択の範囲が著しく制限された上、女性にとって大切な顔に醜い傷痕が残ったことで、著しい精神的苦痛を被り、結婚適齢期を迎えながら結婚を諦めかけており、事故後すべての面で引っ込み思案になり、現在人と接するのを避けている。これら原告の精神的被害の慰謝料は一二〇〇万円が相当である。

<6> 弁護士費用 金二六〇万円

<7> 合計 金三九五四万二四六〇円

5  填補 金一〇三一万円

原告は、自賠責保険から、金一〇三一万円を受領した。

6  相続

亡謙太は、本件事故当日である平成六年五月四日午前三時二〇分ころ死亡し、亡謙太の相続人である父被告竹内昭平及び母被告竹内さちよが相続により法定相続分である各二分の一の割合で亡謙太の右権利義務一切を承継した。

7  結論

よって、原告は、被告昭平に対し金二九二三万二四六〇円、被告さちよに対し被告昭平と連帯して金一四六一万六二三〇円及びこれらに対する本件事故日である平成六年五月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1乃至3は認める。

請求原因4<1>は認め、同4<2>、<3>は争う。

請求原因4<4>は否認する。醜状痕それ自体は、肉体的な労働能力に何ら影響を及ぼさない。仮にスチュワーデスが外貌を特に重視する職業であったとしても、原告は未だその職に就いておらず、将来の収入の減少などの経済的不利益を被る蓋然性は全く予想不可能である。

請求原因4<5>は争う。原告は搭乗者傷害保険金として金二一八万二五〇〇円を受領しているので、慰謝料算定の一事情として斟酌すべきである。

請求原因4<6>は争う。

請求原因6は認める。

三  抗弁

1  好意同乗による減額

本件事故は、亡謙太の飲酒による無謀運転が原因であるが、原告は亡謙太の飲酒の事実を知りながら、これを制止せず同乗していたものであるから、賠償すべき損害額は損害合計額から少なくともその五〇パーセントを減額した額とすべきである。

2  損害の填補

原告は、自認する請求原因5の填補額以外に、六六万九八〇四円の支払いを受けたから、填補額合計は一〇九七万九八〇四円となる。

四  抗弁に対する認否

抗弁はいずれも争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の証拠に関する目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  責任

請求原因2は当事者間に争いがない。

三  権利侵害

請求原因3は当事者間に争いがない。

四  損害額

1  治療費 七七万三四九六円

請求原因4<1>は当事者間に争いがない。

なお、甲第一二ないし第二〇号証、乙第一、第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、治療費として右争いのない金額以外に五二万六五三四円を要したことが認められる。

したがって、治療費合計額は七七万三四九六円となる。

2  入院雑費 一万八二〇〇円

原告の入院合計日数が一四日であることは前記三のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円と認めるのが相当であるから、一四日間の入院雑費合計は一万八二〇〇円となる。

3  傷害慰謝料 一五〇万円

本件事故の態様、原告の受傷の部位、程度、治療経過等を総合考慮すると、傷害慰謝料は一五〇万円と認めるのが相当である。

4  逸失利益 一一三五万八八六四円

原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告(昭和五〇年九月二四日生)は、本件事故当時、駿台ホテル観光事業専門学校スチュワーデス課に在籍する満一八歳の女子学生であり、将来はスチュワーデスの職に就くことを志望し、学校内でも将来を期待されていたが、事故後の平成七年六月に航空会社でスチュワーデス採用試験を受験した際、試験担当員から事故の後遺障害である顔面醜状痕等を指摘されて不採用となり、目下スチュワーデスになることを諦めかけていること、その後、平成七年一二月に株式会社中国テレフォンサービスに入社して外回りの営業職に就いていたが、二か月間ほどで辞め、現在は株式会社USS岡山でコンピューター関係の仕事をして月収一五万円、賞与年二回一〇万円程を得ていることが認められる。

右認定の顔面醜状痕等による希望職種への就職上の制約、転職、現在の収入等の実情に加えて、前記三の後遺障害の部位、内容、程度等の諸般の事情を総合考慮すると、現在の社会情勢から見て、女子である原告の選択しうる職業や職場の範囲が相当に制限され、ひいては収入の減少につながる蓋然性が高いものと推認されるところ、これによる逸失利益を算定するについては、症状固定時(一九歳)の平成七年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計高校卒女子労働者の全年齢平均の年間給与額三一四万一八〇〇円を基礎とすれば、労働能力喪失率を二〇パーセントとして、右金額に〇・二を乗じ、中間利息控除のため症状が固定した一九歳から就労終期と目される六七歳までの四八年間に対応するライプニッツ係数一八・〇七七を乗じて一一三五万八八六四円と認めるのが相当である。

5  後遺障害慰謝料 一〇五一万円

前記認定の後遺障害の部位、内容、程度、原告の性別、年齢、婚姻の有無、就業状況その他諸般の事情(なお、乙第六号証によれば、原告は被告昭平負担の搭乗者傷害保険金として金二一八万二五〇〇円を受領していることが認められるところ、右保険金の受領は通常被害者の精神的苦痛の軽減に資する事情と解されるので、これを慰謝料額算定にあたって斟酌するが、もちろん右受領額全額を慰謝料から減額する趣旨ではない)を総合考慮すると、後遺障害慰謝料は一〇五一万円と認めるのが相当である。

6  合計 二四一六万〇五六〇円

五  好意同乗

甲第一号証、乙第四、第五号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、知人の亡謙太、吉田謙一及び森屋沙代らと淡路島に夜釣りに出かけ、本件事故の前日夜淡路島に到着し、食事をとるなどし、雨の中を亡謙太運転の加害車両に同乗し、ドライブを楽しむなどした後、日も替わり、雨も止んだことから、釣り場に向かっていたところ、亡謙太が運転を誤り、加害車両を対向車線を越えて岩壁に衝突させる事故を惹起したこと、事故後、亡謙太から体液一ミリリットル中に約〇・三ミリグラムのエチルアルコールが検出され、警察では、右事故の原因は亡謙太の飲酒による居眠り運転にあると推定していること、淡路島にわたるフェリーに乗る前、亡謙太らは後で皆と飲酒するための酒を買い込んでいたが、原告は亡謙太が何時飲酒したのか知らなかったこと、以上のとおり認められる。

なお、被告は抗弁1のとおり主張するが、原告が亡謙太の飲酒を知りながら同乗していたことを認めるに足りる証拠はない。

右認定の事故態様、推定される亡謙太の過失の内容、程度、原告を含めた同乗者三名の立場、行動、同乗の目的、事故に至る経緯等の諸事情を総合考慮すると、いわゆる好意同乗としての損害額の減額の割合は、損害の公平な分担の見地からみて、全損害額の二〇%と認めるのが相当である。

したがって、賠償すべき損害額は前記四6の二四一六万〇五六〇円から二〇%を控除した残額一九三二万八四四八円となる。

六  填補 一〇九七万九八〇四円

乙第一ないし第三号証並びに弁論の全趣旨によれば、填補額は合計で一〇九七万九八〇四円と認められる。

七  弁護士費用 八〇万円

本訴の内容、審理の経緯、認容損害賠償額等を総合考慮すると、弁護士費用は八〇万円と認めるのが相当である。

八  相続

請求原因6は当事者間に争いがない。

九  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告竹内昭平に対し、運行供用者責任に基づいて前記五の賠償すべき損害額一九三二万八四四八円から前記六の填補額一〇九七万九八〇四円を控除した残額八三四万八六四四円に前記七の弁護士費用八〇万円を加えた九一四万八六四四円及びこれに対する本件事故の日である平成六年五月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、被告竹内さちよに対し、右賠償すべき損害残額及び弁護士費用の合計額の亡謙太からの相続分二分の一にあたる四五七万四三二二円及びこれに対する右同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める(右は被告竹内昭平に対する債権と不真正連帯の関係にある)限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言の申立について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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